• 立冬
    「鮮度が命」にあらず。熟成した旨みを愉しむ

    冬間近を感じさせる秋の深まりとともにうまみがのり、大きく育ってきました。
    見た目に似合わずコクのあるその身は、白身の王様とも。白身魚の刺身では極上とされ、とりわけえんがわは食感も甘みも旨みも文句のつけようがないほどと称される、この魚を選びなさい。

    ①カレイ ②カワハギ ③ヒラメ ④フグ

    ▼解答と解説コラム▼
    【解答】③ヒラメ
    【解説】「たいやひらめの舞い踊り」の言葉通り、春のマダイと並び称される、冬にうまい白身魚の代表格。水深50〜200メートルの深海、砂地の色や周囲の環境に同調するよう体色や模様を変え、砂に身を隠して棲んでいる夜行性の魚だ。口が大きく、小魚やエビを主食としている。

    程よい歯ごたえのあとに、ふわぁ~と広がる上品なクセのない甘み。一度味わったことのある方にはヒラメのおいしさはご承知のとおりだが、時期によって味に大きな差がある。
    「三月鮃(ひらめ)は犬も食わぬ(または、猫またぎ)」とも昔からいわれ、また古川柳に「知恵のなさ四月鮃の刺身なり」と詠まれるとおり、ヒラメのおいしい時季は10月から2月までといっていいだろう。
    「産卵を終えて味が落ちる春から夏にはヒラメを仕込まない」との見識をみせるすし屋は少なくない。

    ヒラメの薄造り。うまみの成分、イノシン酸が豊富なため、白身でも味にコクがある透き通るかのような白身はほどよく身が締まり、クセのない美味だから多くの人に好まれる。
    食味のよさで知られる縁側とよばれる部分は、くりくりっとした歯ざわりと口中でのとろけ具合がたまらない。ここはヒラメがよく使う背びれと腹びれを動かす筋肉。まずいわけがない。

    魚は必ずしも鮮度が命とは限らない。数時間から数日ねかせておいた方がおいしくなるものがある。サイズの大きいマグロや硬い身をもつフグなどがそう。ヒラメもそのうちの一つだ。
    食べる直前に締めたものは、コリコリとした歯ごたえで食感がいい。死後硬直する前で、筋肉が硬くなりかけているためだ。でも、そこにはうまみが足りず、本当に美味しいヒラメの風味を味わうことができない。


    締めてからすぐ食べても美味しい魚もある。しかしヒラメはもともと身が硬めなだけに、締めてから1~2日ねかせておくことで、死後硬直した身が酵素の働きで熟成され、うまみ成分が増し、身肉も適度にやわらかな食感になる。
    魚の性質を理解している店では、ヒラメは締めたてではなく、ねかせたものが出てくる。
    ヒラメの食べさせ方一つで、店のレベルがわかる。

    ヒラメによく似ているカレイとの見分け方を示す「左ヒラメに右カレイ」という言葉がある。
    体の左側に目があるのがヒラメ、右側にあるのがカレイという意味だが、もうひとつの見分け方が「口と歯」。ヒラメは魚食性のため、口が大きく歯がとがり、怖い顔をしている。
    一方。ゴカイ類などを食べるマコガレイやマガレイなどはおちょぼぐちで、歯も小さく、やさしげ印象がある。そのため「大口ヒラメの小口カレイ」ともいう。
    マガレイにはたとえば「口細(クチボソ)」という別名もある。

    「ヒラメ関東、カレイ関西」は、昔から好まれてきた地域をあらわす。関東人がこよなく愛するヒラメは江戸前ずしではタイ以上の人気を誇る。